藝術文化論 2006年度 (金4後期)
キリスト教藝術論: モーツァルトの宗教音楽
【科目の系列】 広域科目(展開)
【年次】1年次 【学期】後期 【単位】2単位
【講義の目的】
藝術におけるさまざまな問題を取り上げ、専門的な議論にも立ち入って講述する。
今年度は、今年で生誕250周年を迎えるモーツァルト(1756-1791)の作品から宗教音楽を取り上げ、ヨーロッパ文化を形成するキリスト教との関わりについて思想的・文化的側面から考察する。講義では、それぞれの曲の音楽としての特徴と同時に、歌われている歌詞の神学的・文化的含蓄にも踏み込んで言及する。
また、折に触れて宗教曲以外のモーツァルト作品にも言及したい。 開講後でも、受講生諸君に「モーツァルトの、この曲を聞きたい」、「詳しく解説して欲しい」という曲があれば、リクエストにもお応えしたい。(今後の予定曲目を書き加えました。)
【講義計画】
【第1回】 モーツァルトの音楽作品とキリスト教文化
今日の一曲 セレナーデ 《アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク》 ト長調 K.525
まずは、モーツァルトの曲に慣れ親しむ意味で、有名な曲にいくつか触れてみよう。その上で、モーツァルトと教会との関わり、そして教会音楽史におけるモーツァルト作品の位置づけについて、種々の教会音楽を聞き比べつつ講述する。
セレナーデ 《アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク》 ト長調 K.525 第1楽章、第3楽章 The English Concert, (Cond.) Andrew Manze
ピアノソナタ第11番 イ長調 K.311《トルコ行進曲付き》 第3楽章 (Pf.) Maria Joao Pires
ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K.467 第2楽章 (Pf., Cond.) Murrey Perahia, English Chamber Orchestra
交響曲第40番 ト短調 K.550 第1楽章 English Chamber Orchestra, (Cond) Jeffrey Tate
モテット 《エクスルターテ・ユビラーテ》 ヘ長調 K.165 (158a) 第4曲「アレルヤ」 (Sop.) Barbara Bonney, The English Concert, (Cond.) Trevor Pinnock
《戴冠ミサ曲》ハ長調 K.317 第1曲「キリエ」The English Concert & Choir, (Cond.) Trevor Pinnock
【第2回】 モーツァルト《戴冠ミサ曲》"Kroenungsmesse" K.317
今日の一曲 ピアノソナタ第11番 イ長調 K.311《トルコ行進曲付き》
○ミサという礼拝形式と、その中での音楽の役割
○「キリエ」(憐れみの賛歌)
キリスト教の礼拝がどのように行われるかを見ながら、その中で用いられる音楽についてモーツァルトのザルツブルク時代の傑作《戴冠ミサ曲》を例に、6回にわたって講述する。最初は、「ミサ曲」の最初に置かれた「憐れみの賛歌」について。
ピアノソナタ第11番 イ長調 K.311《トルコ行進曲付き》 第3楽章 (Pf.) Maria Joao Pires
同上 第1楽章 (Pf.) Maria Joao Pires
《戴冠ミサ曲》ハ長調 K.317 第1曲「キリエ」 Wiener Philharmoniker und Wiener Singverein, (Cond.) Herbert von Karajan
【第3回】 モーツァルト《戴冠ミサ曲》"Kroenungsmesse" K.317
今日の一曲 ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調 K.595
○「グロリア」(栄光の賛歌)
○教会暦(チャーチ・カレンダー)とヨーロッパの一年間
《戴冠ミサ曲》は、本年1月27日ザルツブルクの聖シュテファン大聖堂で行われたモーツァルト生誕250周年記念礼拝にも用いられた。講義前半は「キリエ」に続いて歌われる「グロリア(栄光の賛歌)」について講述する。後半は、キリスト教文化圏の一年間の生活について、教会暦と密接に関係する諸行事を紹介する。
ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調 K.595 第1楽章 (Pf., Cond.) Murrey Perahia, English Chamber Orchestra
同上 第3楽章 (Pf.) Malcolm Bilson, (Cond.) John Eliot Gardiner, English Baroque Soloists
同上 第3楽章 (Pf., Cond.) Murrey Perahia, English Chamber Orchestra
歌曲 《春への憧れ》 (Ten.) Peter Schreier, (Pf.) Joerk Demus
《戴冠ミサ曲》ハ長調 K.317 第2曲「グロリア」 Wiener Philharmoniker und Wiener Singverein, (Cond.) Herbert von Karajan
【第4回】 モーツァルト《戴冠ミサ曲》"Kroenungsmesse" K.317
今日の一曲 交響曲第36番 ハ長調 K.425 《リンツ》 第1楽章
○キリスト教とは何を信じている宗教か(ニカイア=コンスタンチノープル信条)
○「クレド」(その1) 父
紀元4世紀、教会は幾度か公会議を開催して、自分たちの信仰内容を「信条(信仰告白)」という形にした。「ミサ曲」の第3曲目は、その信条のテキストを歌う「クレド」である。講義では、「父、子、聖霊」の三位一体説に基づいて、まず「父」なる神への信仰を表している箇所に着目し、「ニカイア信条」が持つ、神への讃美という性格について講じる。
交響曲第36番 ハ長調 K.425 《リンツ》 第1楽章 Wiener Philharmoniker, (Cond.) Carlos Kleiber
《戴冠ミサ曲》ハ長調 K.317 第3曲「クレド」 Wiener Philharmoniker und Wiener Singverein, (Cond.) Herbert von Karajan
【第5回】 モーツァルト《戴冠ミサ曲》"Kroenungsmesse" K.317
今日の一曲 オペラ 《フィガロの結婚》 序曲、第1幕冒頭、第2幕 ケルビーノのアリア"Voi que sapete que cosa e amor"
○「クレド」(その2) 子
キリスト教が、他の啓示宗教(ユダヤ教、イスラム教)と比べて際だった特色を見せているのは、「子」としてのイエス・キリストが「生まれ」、十字架につけられ、その後復活したということを言っている点であろう。《戴冠ミサ曲》のその部分を聞きながら、この教義の持つ独自性について講述する。
オペラ《フィガロの結婚》 Theatre National L'Opera de Paris, (Cond.) Sir Georg Solti
《戴冠ミサ曲》ハ長調 K.317 第3曲「クレド」 Wiener Philharmoniker und Wiener Singverein, (Cond.) Herbert von Karajan
【第6回】 モーツァルト《戴冠ミサ曲》"Kroenungsmesse" K.317
今日の一曲 オペラ 《フィガロの結婚》 第3幕 6重唱(フィガロ、スザンナ、マルチェリーナ、ドン・バルトロ、アルマヴィーヴァ伯爵、ドン・クルツィオ)
○「クレド」(その3) 聖霊
「父」と「子」はまだイメージできるとしても、「聖霊」はなかなか分かりにくいと言われることもある。この聖霊の働きについて、聖霊と教会の関係を中心に講述する。
オペラ《フィガロの結婚》 Theatre National L'Opera de Paris, (Cond.) Sir Georg Solti
サン・ピエトロ大聖堂(ヴァチカン)における聖ペテロ・聖パウロ祭日のミサ(1985年6月29日)より、御言葉の典礼(祭儀)の「集祷(コレクタ)」、聖書朗読(第1日課『使徒行伝』、第2日課『テモテ人への第2の手紙』、福音書『マタイ福音書』)
【第7回】 モーツァルト《戴冠ミサ曲》"Kroenungsmesse" K.317
今日の一曲 セレナーデ第10番 《グラン・パルティータ》 第3楽章
○「サンクトゥス」「アニュス・デイ」
○礼拝で行われていること
「ミサ曲」の「サンクトゥス」と「アニュス・デイ」が用いられるミサ後半部について講じる。ここで行われる「聖餐」という儀式の由来となった聖書の箇所を取り上げ、併せて数多くの名画の画題にもなった「最後の晩餐」についても言及する。
《グラン・パルティータ》 第3楽章 Members of the Orchestra of the 18th Century, (Cond.) Frans Brueggen
《戴冠ミサ曲》ハ長調 K.317 第4曲「サンクトゥス」 第5曲「ベネディクトゥス」 第6曲「アニュス・デイ」 Wiener Philharmoniker und Wiener Singverein, (Cond.) Herbert von Karajan
【第8回】 モーツァルト《アヴェ・ヴェルム・コルプス》"Ave Verum Corpus" K.618
今日の一曲 弦楽四重奏曲第17番 変ロ長調 《狩り》 第1楽章
○キリスト教の秘蹟(サクラメント)
《アヴェ・ヴェルム・コルプス》の歌詞はたいへん簡素であるが、これを読むとキリスト教の「聖餐」がどのような考えの下に行われているかが分かる。講義ではこのテキストの講解を通して、秘蹟というものの意味を考える。
弦楽四重奏曲第17番 変ロ長調 K.458《狩り》 第1楽章 Hagen Quartett
モテット 《アヴェ・ヴェルム・コルプス》K.618 Netherlands Chamber Choir, Frans Brueggen (Cond.), The Orchestra of the 18th Century
サン・ピエトロ大聖堂(ヴァチカン)における聖ペテロ・聖パウロ祭日のミサ(1985年6月29日)より、聖体・感謝の典礼(祭儀)の「叙唱・奉献」、「聖体拝領」、「終祭」
【第9回】 モーツァルト《レクイエム》"Requiem" K.626
今日の一曲 交響曲第40番 ト短調 第1楽章
○死者のためのミサ曲
《レクイエム》の内容を通して、キリスト教の葬儀について講述する。また、聖書の成り立ちと、旧約と新約に記された教えの比較を通じて、キリスト教という宗教の特質を考える。
交響曲第40番 ト短調 K.550 第1楽章 Nikolaus Harnoncourt (Cond.), Royal Concertgebouw Orchestra
死者のためのミサ曲《レクイエム》より、「入祭唱」「キリエ」「怒りの日」 John Eliot Gardiner (Cond.), English Baroque Soloists
【第10回】 モーツァルト《レクイエム》"Requiem" K.626
今日の一曲 ピアノ協奏曲第24番 ハ短調 第3楽章
○キリスト教の死生観
葬儀という儀式には、その文化の持つ死生観が反映されている。《レクイエム》を聞きながら、その歌詞を通して、また『ヨハネの黙示録』も参照して、キリスト教の死生観を考える。
ピアノ協奏曲第24番 ハ短調 K.491 第3楽章 Murrey Perahia (Pf., Cond.), English Chamber Orchestra
死者のためのミサ曲《レクイエム》より、「続唱(セクエンツィア)」「聖体拝領唱(コンムニオ)」 John Eliot Gardiner (Cond.), English Baroque Soloists
【第11回】 モーツァルト《証聖者の荘厳晩課》"Vesperae Solennes de Confessore" K.339
今日の一曲 ピアノ協奏曲第17番 ト長調 第3楽章
○毎日行われる礼拝(聖務日課)の形式
日本の仏教にも朝夕の「お勤め」があるように、キリスト教にも一日を通して様々な祈りの儀式(礼拝)が行われている。講義では、数々の美しい音楽作品が残されている晩課(晩祷)をとりあげる。
ピアノ協奏曲第17番 ト長調 K.453 第3楽章 Murrey Perahia (Pf., Cond.), English Chamber Orchestra
歌劇 《魔笛》 K.620 第1幕より 「パパゲーノのアリア」 "Der Vogelfaenger bin ich ja" Christian Boesch (Papageno, Bar.) James Levine (Cond.), Wiener Philharmoniker
キャロルによるクリスマス・イブ礼拝より "Once in Royal David's City", "Quem Pastores Laudavere", "In Dulci Jubilo", A Reading from the Book of Exodus, "Angels from the Realms of Glory". in "Carols from King's" Choir of King's College, Cambridge, Stephen Cleobury (Cond.)
《証聖者の荘厳晩課》 K.339より 『詩篇』第[109]110篇 "Dixit Dominus"(交唱付き) Nikolaus Harnoncourt (Cond.), Concentus Musicus Wien
【第12回】 モーツァルト《証聖者の荘厳晩課》"Vesperae Solennes de Confessore" K.339
今日の一曲 歌劇 《魔笛》パパゲーノとパミーナのデュエット"Bei Maennern, welche Liebe fuehlen" 他
○讃美としての『詩篇』
晩課では旧約聖書の『詩篇』が歌われる。モーツァルトの《証聖者の荘厳晩課》は、タイトルこそ我々にはあまりなじみのない単語が並ぶが、その音楽はとても綺麗で印象深いものである。講義では、その中でもとりわけ美しい「主を讃えよ Laudate Dominum」(『詩篇』第[116]117篇)を取り上げ、キリスト教文化における『詩篇』の位置づけを考察する。
歌劇 《魔笛》 K.620 第1幕より 「パパゲーノとパミーナのデュエット」 "Bei Maennern, welche Liebe fuehlen" Christian Boesch (Papageno, Bar.), Ileana Cotrubas (Pamina, Sop.) James Levine (Cond.), Wiener Philharmoniker
《証聖者の荘厳晩課》 K.339より 『詩篇』第[112]113篇 "Laudate Pueri Domini"(交唱付き) Nikolaus Harnoncourt (Cond.), Concentus Musicus Wien
《証聖者の荘厳晩課》 K.339より 『詩篇』第[116]117篇 "Laudate Dominum" Barbara Bonney (Sop.), Trevor Pinnock (Cond.), The English Concert
キャロルによるクリスマス・イブ礼拝 "Hark the Herald Angels Sing" in "Carols from King's" Choir of King's College, Cambridge, Stephen Cleobury (Cond.)
【第13回】 モーツァルト《証聖者の荘厳晩課》"Vesperae Solennes de Confessore" K.339
今日の一曲 クラリネット協奏曲 イ長調 第1楽章
○「聖母マリアの讃歌(マニフィカト)」
晩課の音楽の最後を飾るのは、厳粛でありながら喜びに満ちあふれた「聖母マリアの讃歌」である。毎日の礼拝でマリアの讃歌が歌われる意味を考えるとともに、キリスト教文化における聖母マリアという存在の特質について講じる。
クラリネット協奏曲 イ長調 K.622 第1楽章 Alfred Prinz (Clarinet), Karl Boehm (Cond.), Wiener Philharmoniker
《証聖者の荘厳晩課》 K.339より 「マニフィカト」"Magnificat"(交唱付き) Nikolaus Harnoncourt (Cond.), Concentus Musicus Wien
【受講に当たっての留意事項】
この講義には「体験授業」は存在しない。第1回講義は受講ガイダンス的な話をせずに、すぐに講義内容に入るので、第1週目はサボっても良いなどという了見違いを起こしてはいけない。
【教科書】
特に指定せず、必要に応じてハンドアウトを使用する。
【参考書】
講義中に適宜紹介する。
【成績評価の方法】
期末試験の成績によって評価する。
(c) Motoaki Kato, 2006-2007
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