大阪観光大学 観光学部
加藤素明研究室On Line
UPDATED: 17 July, 2009

TOP
講義概要
プロフィール
資料探索・リンク
文書庫

他大学での講義
 TOP講義概要> 音楽文化論 2009年度

音楽文化論 2009年度 (金3前期)

ジャズ史から見える20世紀の音楽

【科目の系列】 専門科目(展開) 
【年次】2年次 【学期】前期 【単位】2単位

【講義の目的】
 この講義では、古今東西のさまざまな音楽について、専門的な理論をふまえて講述する。  今年度は、20世紀においてとりわけ特徴的な発展の形を見せたジャズという音楽について、その発生から今日の姿までを概説すると共に、この約100年間の西洋音楽がたどった道のりを振り返り、併せて21世紀の音楽が置かれている現状と課題についても考察する。
冊子版への補遺
 「ジャズ」という名前で括られる音楽は、実は相当に幅の広い領域にわたっています。洒落た酒場のBGMに使われる1950年代風ハードバップ系、あるいはウエストコースト系モダンジャズも「ジャズ」なら、とてもBGMには使えないような難解極まる鑑賞用セッションも「ジャズ」と言われるし、また30年代のダンスホールや90年代以降のクラブシーンで用いられる「踊るための」音楽にも「ジャズ」という名称があてられることがあります。
 こうした状況が生まれてくるのは、ジャズという音楽の根底に融通無碍な(むしろ変幻自在な)特質があるからです。ジャズにおいては、合理的で理知的で西洋文明謳歌の無邪気で明るい側面と、多様で複合的で錯綜した人種・民族・政治・経済・文化・生活等々の陰で苦しむ人間の暗い側面とが、ひとつの音楽的方法論の中で巧みに表現することが出来ているのです。
 本講義では、これらの秘密を解き明かしながら、ジャズという音楽が含み持っている「陽」と「陰」の両面を見ることによって20世紀の音楽文化を反省し、併せて現代文化を享受する人間の問題を考察する契機としたいと企てております。


【講義計画】
【第1章】 多様な異文化の融合としてのジャズ(1900〜30年代) 教科書pp9-73
 【第1回】 ジャズの誕生(1): 融合音楽としてのブルース、ラグタイム、ジャズ
 【第2回】 ジャズの誕生(2): ブルースとは何か?
 【第3回】 ジャズの伝播、禁酒法時代: ルイ・アームストロング、デューク・エリントン
 【第4回】 スウィング・ジャズ: グレン・ミラー、ベニー・グッドマン、カウント・ベイシー

【第2章】 西洋音楽との相克から生まれたモダンジャズ(1940〜50年代) 教科書pp74-102
 【第5回】 ビ・バップ: チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー
 【第6回】 ビ・バップの方法論: ジャズは「近代音楽」なのか?
 【第7回】 モダンジャズの時代: ハード・バップ、ウェストコースト・ジャズ

【第3章】 モダンの行き詰まりと暗中模索の時代(1960年代) 教科書pp103-160
 【第8回】 ジャズの隆盛: イベント化するジャズ演奏、混血文化としてのジャズ
 【第9回】 類型化からの脱却、モード・ジャズ、フリー・ジャズ
 【第10回】 ジョン・コルトレーンの時代: モダンジャズ神話の終焉

【第4章】 黒人音楽に目覚める黒人達(1960年代〜現代) (教科書から離れて講義します。)
 【第11回】 ブラック・ミュージックの覚醒: R&B、ソウル、ファンク
 【第12回】 ブラック・ミュージックの変貌: レゲエ、ヒップ・ホップ

【第5章】 さまよえる現代の音楽(1970年代〜現代) 教科書pp161-191
 【第13回】 「エレクトリック・マイルス」以降の音楽、現代のジャズ
 【第14回】 現代のジャズ: 音楽はどこへ行くのか?



【第1回】 ジャズの誕生(1): 融合音楽としてのブルース、ラグタイム、ジャズ
 はじめに、「ジャズ」という音楽ジャンルの広がりについて概観する。一口にジャズといってもさまざまな音楽があり得るのは、まずジャズという音楽が、その発生自体から即興生の強いものだったからである。ジャズに欠かせない要素である「即興(インプロヴィゼーション)」「アドリブ」「スウィング」等といったものが、いずれも決してジャズの専売特許ではないことを確認した上で、「ジャズ」という語の適応範囲について考えよう。
 次に、ジャズの起源となった音楽について学ぼう。19世紀後半のアメリカで、奴隷解放によって黒人の社会と生活が変化するにともない発生した「ブルース」という音楽と、「ラグタイム」という音楽について講述する。
プリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンド Preservation Hall Jazz Band. "When the Saints Go Marchin' in"《聖者が街にやってくる》 Sony Music, 1992
グレン・ミラー楽団 Glenn Miller Orchestra "In the Mood" 1939年録音 from "The Best of Glenn Miller" BMG, 2002
ビル・エヴァンズ・トリオ Bill Evans Trio "Waltz for Debby" 1961年録音 Riverside, 1987
ロバート・ジョンソン Robert Johnson "Cross Road Blues" 1936年録音 Columbia, 1997
スコット・ジョプリン Scott Joplin "The Entertainer" 1902年録音 Sony Music, 2003

【第2回】 ジャズの誕生(2): ブルースとは何か?
 一般に、融合音楽としてのブルース、ラグタイム、ジャズ等は、アメリカという土地でアフリカ文化とヨーロッパ文化が融合して出来た音楽であると説明されている。しかし、事はそれほど単純ではない。この講義では、「融合」を生み出す異文化同士の衝突と軋轢の内実を、音楽と言語の二つの側面から考察する。その上で、ブルースの基本的な特徴(歌詞の構造、AAB形式)を学び、さまざまなブルースの演奏を聞いてみよう。
〈参考図書〉
菊地成孔、大谷能生 『東大アイラー:キーワード編』の「ブルース」の項目 (pp.12-85)
中村とうよう 『大衆音楽の真実』 ミュージック・マガジン、1986
リロイ・ジョーンズ 『ブルースの魂』 上林澄雄 訳 音楽之友社、1965
ロバート・ジョンソン Robert Johnson "Cross Road Blues" 1936年録音 Columbia, 1997
ロバート・ジョンソン Robert Johnson "I Believe I'll Dust My Broom" 1936年録音 Columbia, 1997
ライトニン・ホプキンス Lightnin' Hopkins "Tom Moore Blues" 1967年 P-Vine Records, 2001

【第3回】 ジャズの伝播、禁酒法時代: ルイ・アームストロング、デューク・エリントン
 今回の講義では、ニューオリンズからシカゴへとジャズが伝播する過程、そしてニューヨークでの音楽の発達と変化について講じる。
(1) ニューオリンズで始まったジャズ音楽は1910年代、とりわけ第1次世界大戦へのアメリカ参戦を機に、北部地区へと広がっていった。シカゴに根を下ろしたジャズ・ミュージシャン達は、個々のプレーヤのアドリブを主体とした音楽形式を盛んに実践していった。その代表格として、ルイ・アームストロング(通称サッチモ)の演奏とその方法を学ぼう。
(2) 1920年代のアメリカは「禁酒法」の影響を大なり小なり受けていたが、その中にあってもミュージシャン達は音楽活動を続け、もっぱらダンス音楽を中心に活動を行っていた。ジャズは次第に、第1次大戦後の国威高揚の期待感に沸き立つニューヨークへと、その中心を移していった。そこでは中産階級化した黒人達が白人的な(より西洋の流儀に近い仕方での)生活を望んでいた。こうした時代背景の中で、多くの楽器を用いる大編成バンド(ビッグ・バンド/フル・バンド)による演奏が主流となった。講義では、20世紀の音楽に偉大な足跡を残したデューク・エリントンの演奏を通して20年代に主流だった音楽の姿を学び、また、エリントンの魔法とも言うべき音作りに触れてみたい。
ルイ・アームストロング Louis Armstrong "Basin Street Blues" 1959年録画 in "Louis Armstrong Live in '59" (DVD), Universal, 2006
ルイ・アームストロング Louis Armstrong "When the Saints Go Marching in" 1959年録画 in "Louis Armstrong Live in '59" (DVD), Universal, 2006
デューク・エリントン Duke Ellington and his Orchestra. "Satin Doll" 1968年録画 in "Duke Ellington: Memories of Duke" (DVD), Columbia, 2002
デューク・エリントン Duke Ellington and his Orchestra. "Take the A Train" 1968年録画 in "Duke Ellington: Memories of Duke" (DVD), Columbia, 2002

【第4回】 スウィング・ジャズ: グレン・ミラー、カウント・ベイシー
 1930年代「禁酒法」撤廃後のアメリカでは、合法化された酒場営業のために、客寄せエンタテイメントとしてのダンス音楽の需要が高まった。また、ラジオ放送の開始に伴って、放送用ダンス音楽の編曲も多く行われた。そのような時代背景の下で行われたジャズの諸相を学ぶ。
(1) 白人達も「ジャズ」の演奏を行うようになる。その代表格として、ベニー・グッドマン楽団とグレン・ミラー楽団の演奏を通して、スウィング・ジャズと呼ばれる珠玉の名曲を味わおう。
(2) 他方で、黒人ミュージシャン達は、ジャム・セッションを繰り広げる独自の方法を開発していた。カンザス・シティーで活躍したカウント・ベイシー楽団の演奏を通して、このジャム・セッションによってブルースから発展したジャズの一形態について学ぼう。
ベニー・グッドマン Benny Goodman and his Orchestra. "Sing, Sing, Sing" 1937年 in "The Best of Benny Goodman" BMG, 2002
グレン・ミラー Glenn Miller and his Orchestra. "In the Mood" 1939年 in "The Best of Glenn Miller" BMG, 2002
カウント・ベイシー Count Basie and his Orchestra. "Jumpin' in the Woodside" 1957年録音 in "Count Basie in London", PolyGram Records, 1988
カウント・ベイシー Count Basie and his Orchestra. "Airmail Special" 1941年録画 in "Count Basie: Swingin' in the Blues" (DVD), Columbia, 1992
カウント・ベイシー Count Basie and his Orchestra. "One O'clock Jump" 1942年録画 in "Count Basie: Swingin' in the Blues" (DVD), Columbia, 1992
カウント・ベイシー Count Basie and his Orchestra. "Take Me Back Baby" 1941年録画 in "Count Basie: Swingin' in the Blues" (DVD), Columbia, 1992

【第5回】 ビ・バップ: チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー
 1940年代アメリカに生まれたビ・バップは、ダンス音楽の演奏に飽きた音楽家達によって、主題(テーマ)を基に熱い即興演奏を繰り広げる音楽として発展され、その演奏様式は後のジャズに強い影響を与えた。
(1) チャーリー・パーカーとディジー・ガレスピーの演奏を通して、ビ・バップの特徴を学ぼう。
(2) パーカーやガレスピー等の「ホット」なジャズと好対照をなす「クール」な音楽作りについて、マイルス・デイヴィスの演奏から学ぼう。
〈参考図書〉
山崎英幸 編 『ヴァーチュオーゾのアドリブに学ぶJazz Masters Series: CHARLIE PARKER』 中央アート出版社、2007
ディジー・ガレスピー Dizzy Gillespie (tp) "Norm's Norm" 1961年 in "Charlie Parker & Dizzy Gillespie" (DVD), Salt Peanuts
ディジー・ガレスピー Dizzy Gillespie (tp), チャーリー・パーカー Charlie Parker (as) "Hot House" 1952年 in "Charlie Parker & Dizzy Gillespie" (DVD), Salt Peanuts
ディジー・ガレスピー Dizzy Gillespie (tp), チャーリー・パーカー Charlie Parker (as) "Hot House" 1945年 in "Groovin' High with Dizzy Gillespie", Savoy, 1992
チャーリー・パーカー Charlie Parker (as) "Now's the Time" 1953年 "The Quartet of Charlie Parker: Now's the Time", Verve, 1957
マイルス・デイヴィス Miles Davis (tp) "Move" 1949年 in "Birth of the Cool", Capitol Jazz, 2001

【第6回】 ビ・バップの方法論: ジャズは「近代音楽」なのか?
 20世紀の西洋音楽でもっとも先鋭的な発展を見せたジャンルは、クラシックよりもむしろジャズであったと言えよう。しかし、そのような言説が可能になるのは、ジャズが西洋音楽の方法を吸収して、みずからを洗練させていったことに大きく依存している。今回の講義では、ブルースとビ・バップの関係を講述し、その洗練の(すなわち西洋近代音楽化の)過程を概観する。
(1) 簡単な楽典と和声法の初歩的知識をふまえて、ブルースの和声的形式を学ぼう。
(2) ブルース形式によるスタンダードナンバーを例にして、1940年代から50年代にかけて盛んに行われたビバップ・ジャズの方法論について学ぼう。
〈参考図書〉
吾妻光良 他著 『プレイ・ザ・ブルース・ギター』 中央アート出版社、1980
菊地成孔、大谷能生 『東大アイラー:歴史編』第5章 メディア総合研究所、2005、pp.106-127
菊地成孔、大谷能生 『憂鬱と官能を教えた学校』 河出書房新社、2004
高島慶司 編 『新版 スタンダード・ジャズのすべて 1』 全音楽譜出版社、2006
(1) ロバート・ジョンソン Robert Johnson "I Believe I'll Dust My Broom" 1936年 in "Robert Johnson: King of the Delta Blues" Columbia, 1997
(2) 吾妻光良 "Play the Blues Guitar"(上掲書付属CD)より、「ブルースギターの弾き方(ブルースのコード進行の模範演奏)」
(3) サン・ハウス Son House "My Black Mama" 1930年録音 "Son House and the Great Delta Blues Singers" Document Records, 2000
(4) B.B.キング B.B. King "Rock Me Baby" 1961年録音 P-Vine Records, 1999
(5) チャーリー・パーカー Charlie Parker "Now's the Time" 1953年 "The Quartet of Charlie Parker: Now's the Time", Verve, 1957
(6) ソニー・クラーク Sonny Clark "Cool Struttin'" 1958年 in "Cool Struttin': Sonny Clark" Blue Note, 1987

【第7回】モダンジャズの時代: ハード・バップ、ウェストコースト・ジャズ
 40年代のビ・バップは、ジャズ演奏の理論的な側面を発達させ、音楽の記号化を繰り広げる演奏様式を極めていった。50年代に入ると、ビ・バップの方法論をさらに洗練し、大衆性をも加味しながら、なおも音楽家の藝術性を保った、分かりやすく聞きやすい音楽作りが現れる。
(1) ビ・バップやハード・バップが行った音楽の方法論を和声法の基礎をふまえて、さらに学ぼう。
(2) アメリカ西海岸の白人ミュージシャンを中心とするポップな音楽作り(ウェストコースト・ジャズ)と、東海岸の黒人ミュージシャンを中心とする堅固な構成を備えた演奏様式(ハード・バップ)について学ぼう。
〈参考図書〉
菊地成孔、大谷能生 『東大アイラー:歴史編』第5章 メディア総合研究所、2005、pp.106-127
菊地成孔、大谷能生 『憂鬱と官能を教えた学校』 河出書房新社、2004
(1) ソニー・クラーク Sonny Clark "Cool Struttin'" 1958年 in "Cool Struttin': Sonny Clark" Blue Note, 1987
(2) チャーリー・パーカー Charlie Parker "Now's the Time" 1953年 "The Quartet of Charlie Parker: Now's the Time" Verve, 1957
(3) デイヴ・ブルーベック Dave Bluebeck (pf) 他 "Blue Rondo a la Turk"(トルコ風ブルーロンド) 1959年 in "Time Out" Columbia
(4) デイヴ・ブルーベック Dave Bluebeck (pf) 他 "Take Five" 1959年 in "Time Out" Columbia
(5) アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ Art Blakey (dm) 他 "Moanin'" 1958年 in "Moanin': Art Blakey and the Jazz Messengers" Blue Note, 1987
(6) マイルス・デイヴィス Miles Davis (tp), ミルト・ジャクソン Milt Jackson (vb) 他 "Bag's Groove" 1954年 in "Bag's Groove: Miles Davis" Prestige, 1987

【第8回】 ジャズの隆盛: イベント化するジャズ演奏、混血文化としてのジャズ
 ハード・バップ隆盛の1950年代は、コンサートツアーやフェスティヴァルといったイベント形式による演奏機会が盛んになった時期であった。また、レコード録音によって数多くの名演奏が残っている時期でもある。映画や詩などの他ジャンルとの協働(コラボレーション)の試みも行われていた。
 黒人文化から始まったジャズも、この時期になると白人文化(西洋近代文化)との混血化(ハイブリッド化=雑種化)が達成された。しかし、黒人ミュージシャンが混血文化の音楽を黒人文化の音楽だと思って演奏しているということについて、黒人達みずからが現実との隙間を徐々に自覚するようにもなった。それはやがて、ゴスペル、R&B、ファンクといった、黒人共同体の感性と触れ合う音楽への傾倒に現れることになる(→第11回講義で詳説)。
(1) 他ジャンルとのコラボレーションの実例を聞いてみよう。ジャズという音楽の方法が、映画音楽などにおいてどのように活かされているか、またどのような困難があるかを学ぼう。
(2) この時期のモダンジャズの名曲を鑑賞しよう。演奏者が違うと、同じひとつのメロディーが全く違う曲に変貌するというジャズならではの特質を、CDを聞き比べて体験しよう。
(1) マイルス・デイヴィス Miles Davis (tp) "Ascenseur pour l'echafaud"(死刑台のエレベーター) 1958年 Universal, 2003
(2) ヘレン・メリル Helen Merrill (vo) "You'd Be So Nice to Come Home to" 1954年 in "Helen Merrill with Clifford Brown" EmArcy
(3) アート・ペッパー Art Pepper (as) "You'd Be So Nice to Come Home to" 1957年 in "Art Pepper Meets the Rhythm Section" Contemporary Records, 1988
(4) ジュリエット・グレコ Juliette Greco (vo) "Les Feuilles Mortes"(枯葉)1959年 in "The Best of Juliette Greco" Universal Music, 2000
(5) キャノンボール・アダレイ Cannonball Adderley (as), マイルス・デイヴィス Miles Davis (tp) "Autumn Leaves"(枯葉) 1958年 in "Something Else" Blue Note
(6) ビル・エヴァンス Bill Evans (pf) "Autumn Leaves"(枯葉) 1959年 in "Portrait in Jazz" Riverside
(7) バッド・パウエル Bud Powell (pf) "Cleopatra's Dream"(クレオパトラの夢) 1958年 in "The Scene Changes; The Amazing Bud Powell vol. 5" Blue Note
(8) 穐吉敏子 (pf) "Softly as in a Morning Sunrise"(朝日のようにさわやかに) 1956年 in "Toshiko" Storyville
(9) モダン・ジャズ・カルテット Modern Jazz Quartet "Softly as in a Morning Sunrise"(朝日のようにさわやかに) 1955年 in "Concorde" Prestige, 1995

【第9回】 類型化からの脱却、モード・ジャズ、フリー・ジャズ
 モダンジャズの「アドリブ」は、西洋近代音楽の和声(chord)の約束事に従って行われていた。それはつき詰めれば、「音楽の記号化=コード(code)化」ということになる(→第6回講義)。しかし、それが常套化するにつれて、新しい方法を模索する動きが始まった。今回の講義では、1959年に起こった3つの新しい動きについて講述する。
(1) コード(和声)の法則を大胆に飛び越える試みとして、ジョン・コルトレーンの《ジャイアント・ステップス》が登場した。この曲の和声を分析して、その斬新さを検証してみよう。
(2) 和声法を主とする調性音楽を止め、調性音楽以前にあった、モード(旋法)を用いた音楽をジャズに取り入れる試みが行われた(モード・ジャズ)。その実例として、マイルス・デイヴィスのアルバム「カインド・オブ・ブルー」の音楽作りについて学ぼう。
(3) さらに、上記のような諸法則から極力脱しようとした、オーネット・コールマンによるフリー・ジャズの試みについても学ぼう。
〈参考図書〉
木下牧子 監修 『図解雑学 よくわかる 楽典』 ナツメ社、2008
十枝正子 編著 『グレゴリオ聖歌選集』 サンパウロ、2004
山崎英幸 編 『ヴァーチュオーゾのアドリブに学ぶJazz Masters Series: JOHN COLTRANE』 中央アート出版社、2009
(1) ジョン・コルトレーン John Coltrane (ts) "Giant Steps" 1959年 in "John Coltrane: Giant Steps" Atlantic
(2) グレゴリオ聖歌 ミサ通常唱 第9ミサ 聖母マリアの祝祭日より、第1旋法の「キリエ」 ソレム修道院聖歌隊 キングレコード
(3) マイルス・デイヴィス Miles Davis (tp) "So What?" 1959年 in "Kind of Blue" Columbia
(4) オーネット・コールマン Ornette Coleman (as) "Chronology" 1959年 in "The Shape of Jazz to Come" Atlantic

【第10回】 ジョン・コルトレーンの時代: モダンジャズ神話の終焉
 60年代はフリー・ジャズの先鋭的な演奏が発展した時期であった。今回はこの時期のジョン・コルトレーンの演奏を年代順にたどり、ジャズという音楽が進んだ「あるひとつの極致」を見ておきたい。
(1) オーネット・コールマンによるフリー・ジャズの典型例を聞き、この音楽が何を目指したのか考えよう。
(2) 旋法音楽の方法によって作られたモード・ジャズについて復習する。その上で、コルトレーンの愛奏曲である"My Favorite Things"、及びその後の演奏から、ジャズという音楽が進んでしまった「あるひとつの方向」、「ひとつの極致」について学ぼう。
〈参考図書〉
高島慶司 編 『新版 スタンダード・ジャズのすべて 1』、『同 2』 全音楽譜出版社、2006
(1) オーネット・コールマン Ornette Coleman (as) "Lonely Woman" 1959年 in "The Shape of Jazz to Come" Atlantic
(2) ジョン・コルトレーン John Coltrane (ss) "My Favorite Things" 1960年 in "My Favorite Things" Atlantic
(3) ジョン・コルトレーン John Coltrane (ss) "My Favorite Things" 1961年 in "John Coltrane: The Supreme Sessions" (DVD) Columbia, 2006
(4) マイルス・デイヴィス Miles Davis (tp), ジョン・コルトレーン John Coltrane (ts) "So What?" 1959年 in "John Coltrane: The Supreme Sessions" (DVD) Columbia, 2006
(5) ジョン・コルトレーン John Coltrane (ts) "Acknowledgement" 1964年 in "A Love Supreme" Impulse
(6) ジョン・コルトレーン John Coltrane (ts) "Ascension (Session 2)" 1965年 in "Ascension" Impulse
(7) ジョン・コルトレーン John Coltrane (ts, bells) "Mars" 1967年 in "Interstellar Space" Impulse

【第11回】 ブラック・ミュージックの覚醒:R&B、ソウル、ファンク、そしてジャズ
 (この回の講義は、教科書の内容を離れて行う)
 ジャズがコルトレーンの死とともにあるひとつの終焉を迎えていた頃、音楽シーンはむしろロック、R&B等のジャンルが隆盛に向かうことになる。 1950年代から60年代にかけて、アメリカの音楽嗜好は、より「黒人的」な音楽に向かって行ったと言うことができよう。その音楽の発展には、ブルースの特徴を取り入れつつ主として白人によって発達したロックと、黒人ミュージシャンたちによって、彼ら独自のアイデンティティーを表す音楽として発達したR&B、ソウル、ファンク等の諸ジャンルがある。
(1) スピリチュアル、ゴスペル、R&Bといった、黒人系ミュージシャンの伝統を確認しよう。
(2) 白人系の若者が傾倒したロックンロールと呼ばれる新しい音楽を確認すると共に、そこに常に潜む、白人が「黒人的」な要素をいかに再現するかという問題について考えよう。
(3) 黒人系ミュージシャンたちが、自らの黒人としてのアイデンティティーを表す音楽の方法を見出していった過程を概観し、これらとジャズとの関連について、マイルス・デイヴィスの作品から学ぼう。
(1) マヘリア・ジャクソン Mahalia Jackson "Didn’t it Rain" 1954年 in "Mahalia Jackson: Gospels, Spirituals & Hymns" Sony Records, 1991
(2) エドウィン・ホーキンス Edwin Hawkins "Oh, Happy Day!" 1969年 in "Oh Happy Day: The Best of The Edwin Hawkins Singers" Buddha Records, 2001
(3) レイ・チャールズ Ray Charles "Mess Around" 1953年 in "The Definitive Ray Charles" Warner
(4) ビル・ヘイリー&コメッツ Bill Haley and his Comets "Rock around the Clock" 1954年 in "Rock around the Clock" Decca
(5) エルヴィス・プレスリー Elvis Presley "Heartbreak Hotel", "Don't Be Cruel" 1956年 in "Elvis 30 #1 Hits" BMG, 2002
(6) オーティス・レディング Otis Redding "Respect" 1965年 in "The Very Best of Otis Redding" Atlantic, 1992
(7) ジェームス・ブラウン James Brown "Please Please Please" 1956年 in "James Brown: The Best Collection" Universal International Music, 2002
(8) ジェームス・ブラウン James Brown "Get Up, I Feel Like Being a Sex Machine" 1970年 in "James Brown The Best Collection" Universal International Music, 2002
(9) マイルス・デイヴィス Miles Davis "In a Silent Way" 1969年 in "In a Silent Way" Sony Music Entertainment, 2002
(10) マイルス・デイヴィス Miles Davis "Bitches Brew" 1969年 in "Bitches Brew" Sony Music Entertainment, 1998

【第12回】 ブラック・ミュージックの変貌: レゲエ、ヒップホップ、そしてジャズ
 (引き続きこの回の講義も、教科書の内容を離れて行う)
 1970年代にジャマイカで生まれたレゲエは、アメリカのR&Bを基にしているとは言われるものの、ジャマイカ独自の音楽として発達した。ジャマイカの人々は、既存の音素材を、音響機器を駆使してアレンジし、またしゃべりの要素をも盛り込んで、まったく別種の音楽を作り出してしまった。その音楽がジャマイカ系移民を通じて海を越えて人々を感化し、イギリスではクラブ・カルチャーとして、アメリカではヒップホップとして定着して、1980 年代以降、それまで白人資本が支配していたロック、ソウル、ジャズの文化を変貌させてしまった。
(1) レゲエ、ヒップホップ等の発生と発展を概観し、こうした新種の音楽が持っている音楽的特質を学ぼう。
(2) これらの音楽とジャズとの関連について、マイルス・デイヴィスの作品から学ぼう。
〈参考図書〉
菊地成孔、大谷能生 『東大アイラー:歴史編』 第9章 メディア総合研究所、2005
中村とうよう 『ポピュラー音楽の世紀』 岩波新書、1999
(1) ボブ・マーリー Bob Marley “Is This Love” 1977年 in “Legend: The Best of Bob Marley and the Wailers” Def Jam, 2002
(2) キング・タビー King Tubby “The Bold Dub” in “King Tubby in Dub: Bring the Dub Come” Heartbeat, 2003
(3) ジミー・クリフ Jimmy Cliff “You Can Get It If You Really Want” 1970年 in “We Are All One: The Best of Jimmy Cliff” Columbia, 2002
(4) トゥーツ・ヒバート Toots Hibbert “Sit Right Down” in “Toots & The Maytals: Funky Kingston / In the Dark” The Island Def Jam Music Group, 2003
(5) パブリック・エネミー Public Enemy “Bring the Noise” 1988年 in “It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back” Def Jam, 2000
(6) マイルス・デイヴィス Miles Davis “On the Corner” 1972年 in “On the Corner” Columbia

【第13回】 「エレクトリック・マイルス」以降の音楽、現代のジャズ
 ジャズのメインストリームは60年代以降フリー・ジャズの方向に流れ、コルトレーンの死をもってビ・バップ以来のモダンジャズは終焉を迎えた。また、音楽シーンのメインストリームは、ジャズではなく、ロック、ソウル、ファンク、ヒップホップ等の他ジャンルが奪い去ってしまった。
 こうした事態にあって70年代のマイルス・デイヴィスは、従来のジャズが指向していた個と個のせめぎ合いではなく、むしろ個の比重を弱めて全体の中に埋没させつつ、意識の底にある、〈元型〉としてのリズムを浮立たせる方向へと自らの音楽を向かわせた。
(1) 70年代のマイルス・デイヴィスの作品から、彼の「原基アフリカ」を模索する姿を垣間見よう。
(2) 他方、かつてマイルスと共に活動していた人たちの中には、70年代以降、元のジャズへと流れを引き戻そうと試みた者もいる。その例として、ジャズを基にロックなどを融合させた「フュージョン」の作品を聞いてみよう。
(3) モダンジャズという〈大きな物語〉が終焉した後、ジャズという音楽は個々のアーティストが各自の解釈を開陳する形で、〈小さな物語〉の列挙に終始する状態となった。こうした状況を概観した上で、現代のジャズ演奏の諸相を見よう。
〈参考図書〉
村上春樹 「誰がジャズを殺したか?」 『やがて哀しき外国語』所収 講談社文庫、1997
(1) マイルス・デイヴィス Miles Davis “Zimbabwe” 1975年 in “Pangaea” Sony Music
(2) チック・コリア Chick Corea “Return to Forever” 1972年 in “Return to Forever” ECM, 2003
(3) ウェザー・リポート Weather Report “Birdland” 1977年 in “Heavy Weather” Sony Music, 1992
(4) ジョージ・ベンソン George Benson “Breezin’“ 1976年 in “Breezin’“ Warner, 1976
(5) ジョン・ゾーン John Zorn “Latin Quarter” 1989年 in “Naked City” Elektra Nonsuch, 1989
(6) スティーブ・コールマン Steve Coleman “Ascending Numeration: Reformed” 2007年 in “Invisible Paths: First Scattering” Tzadik, 2007
(7) ビル・フリゼール Bill Frisell “Floratone” 2007年 in “Floratone” Blue Note, 2007
(8) ラウンジ・リザーズ The Lounge Lizards “Incident on South Street” 1980年 in “The Lounge Lizards” EG Records, 1981

【第14回】の講義について
 冊子版の講義要項(シラバス集)では、どの教官の講義・演習も14回分の内容が記されていますが、今年度の学年歴では前期講義期間は13週間しかありません。しかし、そうだからと言って最終回の講義をないがしろにするのは欺瞞であり、また受講生諸君に対する裏切りにもなりますので、私の講義では第14回目に講じるべき内容を、第13回目までの講義の中に入れ込んでお話ししていきます。それが講義全体のまとめの役割もしますし、当然のことながらそこには試験に出題される内容も含まれていますので、注意深く聞いていてください。



【受講に当たっての留意事項】
 講義時数3分の1を超えて欠席した者には、期末試験の受験資格を認めないので注意すること。
 講義では、音楽の専門的な理論にまで踏み込んで話をするが、学習に必要な資料は講義中に配付し、また参考文献も図書館で準備する。講義にはきちんと出席し、また各自で教科書等を用いてよく復習しておくようにして欲しい。

【教科書】
相倉久人 『ジャズの歴史』 新潮新書203、新潮社、2007

【参考書】
菊地成孔、大谷能生 『東京大学のアルバート・アイラー: 東大ジャズ講義録・歴史編』 メディア総合研究所、2005
(上掲書の文春文庫版)
菊地成孔、大谷能生 『東京大学のアルバート・アイラー: 東大ジャズ講義録・キーワード編』 メディア総合研究所、2006
(上掲書の文春文庫版)
その他、講義中に適宜紹介する。

【成績評価の方法】
期末試験の成績によって評価する。



1.授業評価結果の概要(課題)
【評価する点】
(1) 普段聴いたことのないジャズを聴けて楽しかった。(多数)
(2) いろいろな音楽を聴くことができ、歴史や文化などが学べて、とても面白い授業だった。(多数)
(3) 音楽の歴史は難しいけれど楽しい。
(4) なぜジャズなのか? と思っていたが、ロックやR&Bなど自分が普段聞いているジャンルにつながっていたのだと分かって感動した。
(5) 黒板に書く分量がちょうど良い。
(6) 毎週どんな授業を進めるか、配布プリントで示されるので分かりやすかった。過去の資料も常備してくれて有り難かった。
(7) 講義の声が聞き取りやすくて良かった。
(8) 時間いっぱいまで講義をしてくれるので良い。
(9) 先生のやり方、結構好きです。
【改善すべき点・コメント等】
(10) 内容が難しかった。 もっと板書をしてほしかった。
(11) もっと映像を見たかった。人の名前を言われても、どんな人なのか想像できなかった。
(12) 試験ではなくレポートにしてほしかった。
(13) 食後(3時限目)に音楽の授業は、つい眠くなってしまって、きつかった。
(14) 綾戸智恵の曲を聞きたかった。

2.上記評価に関する教員の取り組み(授業改善策)
(1)〜(9)について 
多くの受講生諸君から好意的な評価をいただき感謝しています。ジャズを通して、音楽の楽しさと素晴らしさを知ってもらえて嬉しく思います。また、内容が少々難しいだけに、よく勉強して期末試験に臨んだ学生諸君も多かったようで、ほぼ満点に近い答案を書いてくれた学生も2名いました。これは近年全くなかったことで、たいへん素晴らしいことです。
「ジャズは過去の音楽」と言われますが、今みんなが好んで聞いている音楽につながっていることを実感してもらえて、講義の目的がひとつ達成できたと思います。 毎回の配布プリント(通称「本日の講義メニュー」)は今年度からの試みで、進行表と使用CDリスト+参考文献を示してから講義を進めましたが、好評だったようで良かったです。
【改善すべき点・コメント等について】
(10)〜(11)について
いつもながら音楽の話は難しいと思います。特に専門用語が頻出するところは難しいですね。板書の分量についても意見はさまざまですが、経験的に一回の講義では黒板一面分ぐらいが適量であると思っています。
ところで、内容を理解する努力はしていますか? 教科書は普段から読んでいますか? 講義中に紹介する参考書を図書館で読んでみましたか? (それ以前に、講義に毎回出席していますか? 教科書は買いましたか?) 講義ノートをちゃんと自分で作っていますか? 板書を写すだけでは講義を受講したことになりません。専門科目の講義内容は、ただ席に座って受け身の姿勢で聞いているだけでは、理解できませんよ。 映像資料は図書館所蔵のものを使っていますので、空き時間にでもちょっと見に行って復習する「一手間」をかけましょう。教科書に載っている数々の写真も参照してください。まあ、それでもアーティスト全員の顔写真を紹介することまではできませんが。
(12)について
 レポート課題による評価は行いません。理由は、レポートにすると勉学を怠る学生が頻出するからです。以前ある科目でレポートを課したところ、多くの学生がインターネット記事からコピー&ペーストしたものを出してきて、結局その学期は合格率が30%を切ってしまったことがありました。 ところが筆記試験(テスト)にすれば、上述のように、きちんと勉強してくる学生は好成績を収め、そうでない学生はそれなりの成績になります。ですので、本学の現状では、講義科目については筆記試験のみが学生諸君の学力と勉学の努力とを正しく評価できる方法であると考えております。
(13)について
 昼食後に眠くなるのは生理現象ではありますが、例えば、昼食を食べ過ぎない(腹八分目以下におさえる)、日光で暖かくなる窓際の席は避ける等の工夫をして、頑張ってください。
(14)について
言ってくれればCDかけたのに…。本学の併設校である明浄学院高等学校のOGで、ゴスペル調の節回しと声遣いが素敵なアーティストですね。

(c) Motoaki Kato, 2009